真・新たな"エモ"を探る 第二回: 季節外れのコタツ、向かい合って

はじめに

"エモ (Emo) は、ロックの形態の一種である。英語での発音は「イーモウ」。
精神的・音楽的にハードコアにルーツを持つことから、エモーショナル・ハードコアと呼ばれることもある。" Wikipedia

この定義は極めて美しくない、いや、"エモ"くないものであると、どこか筆者は感じてやまない。どこか、納得がいっていない。どこか、得心がいかない。
その幻惑の響き漂う視線の前に、我々は幾度となく頷いては従い続けてきた。其処に、疑念を抱くこともなく。其れが、さも生きることだというように。

ここ数年で掻き消された"エモ・情報"を拾い集めるために立ち上がった者は少なかった。小さな力の輝きは、人々の道を照らすには至らなかった。
だが、諦めてはいけない。既にエモに呑まれてしまった世界になってしまったが、未だ潜む"エモ"の芽を見出していけばよいのだ。


今宵で第二回を迎えるこのコラム。意外な反響があり、なんとお蔵入りを避けることができた。ならば、そのエコーに応えよう。また一歩、踏み出す時―――――

過去のコラム: 第一回

"エモ"、そのポッシビリティ

その可能性とやらは果たしてどこまで広がっているのか。第一回で簡単に察知出来る"エモ"をご紹介したが、あれはほんの序章に過ぎない。いや、満たない。
今回はもうワンステップ先に進んだ"エモ"を見ていきたいと思う。第一回を経た読者であれば、すぐに吸収できるだろう。ここから中級編となる。

この見分け方を会得したとき、貴方はもうYoutubeを漁っては"エモ"を血眼になって探さずにはいられなくなってしまうことだろう。筆者の陰謀である。




"エモ"を知る: 中級編 ~おさらい~

まずはもちろん、おさらいからとなる。初級レベルの"エモ"を見てみよう。



このバンドはスペイン自治州であるバスク国を拠点とするカオティックハードコアバンド、The Rodeo Idiot Engineである。突き刺さるヴァイオレンスが持ち味だ。
このミュージックビデオは一瞥して分かる通り、凍った湖の上でメンバーがプレイしているシーン、そして底の見えない水中でのショットが大部分を占めている。
もちろん湖の下から撮っているカメラアングルはCG演出だろうが、あたかも薄い氷の上で本当に撮影されているが如き印象を受けるリアルさがある。

しかし、そのリアルさが過ぎるあまり、あるワンショットが一瞬表出してしまったのを理解できただろうか。それは1分15秒に起きたクリミナルだった。





本当に滑ってしまったのか、あるいはそうでないのか... それはもう問題ではない。その自然と顕現した演出-SLIP-に貴方は何を見ただろう?
彼はもちろん、滑ったわけではない。内に秘めたる爆発的なエネルギーが少しフィジカルに作用してしまい、小ジャンプを繰り出してしまったに過ぎない。
だが、このビデオのコンセプトと照らし合わせたとき、そのパフォーマンスは人智を凌駕する。小ジャンプではなくスリップへと意味がすり替わったのだ。

誰もが予期せぬ刹那に、ミュージックビデオは到達点を向かえ得る。必要な要素が一点に集中したとき、元々の意味さえ塗り替わり新たな世界が広がる。
彼はビデオのコンセプトを理解しすぎた余りに、自然とこの演出を作り出した。自然と身体が滑ろうとしたのだ。
これを認識したとき、貴方の心に「何か」が生じなかっただろうか?それこそが"エモ"であり、未知の道への扉なのである。







人が奏でる素の美... そこに"エモ"が宿る。だが、主役はいつもカメラに映っているとは限らない。それでは、いよいよ中級レベルに入っていきたいと思う。






"エモ"を知る: 中級編 ~不映(ウツラズ)ノ者~

まず、このアーティストを取り上げる前に紹介しなければならない人物がいる。私と同じく常に"エモ"を追い求めている"エモスパート"、RH.Angylus氏だ。
以前、彼の運営するブログにて、とある異端記事が表出した。この"エモ・記事"の中ほどあたりに紹介されているのが今回問題となるアーティストである。


                                   -The Betrayer's Judgement-


彼らはフランスが誇るべき新世代メタルコアバンドである。その大学デビューしたメンズの殆どが通るようなKIKONASHIからも覇者の風格が確認可能だ。

その滲み出す"エモ"が存分に堪能できるのはやはり上記の記事でも紹介されている"Broken Mirrors"なのだが、今回はまた違うビデオから紐解いていく。
それではご覧いただきたい。これは彼らがまだアンダーグラウンドシーンで活動していた時代、2011年にリリースされた1stアルバムからの楽曲である。


現在と異なり、荒々しいバンドサウンドを前面に押し出したメタルコアである。一辺倒ではなく展開が進むにつれてキャッチーなメロディがあるのもポイントだろう。
そんなこのミュージックビデオの後半、楽曲のハイライトに"エモ"が潜んでいる。2分50秒を超えた辺り、ヴォーカルのスクリームからエンジンがかかるのだが...











オ"オ"ォ"ォオ""オ"ォ


ォ"ォ"ォォ""オ"ォ


ォ"" ォ" オ" ォ"


ォ"  ォ"  ォ   "ォ  ""オ" "ォ 











あろうことかこの『カメラマン』、肝心のヴォーカルを一切映していない。

いや、このビデオを編集した人物と言うべきか。ともあれ、折角のパフォーマンスだというのに他のパートメンバーを映し、寄っていくシーンとなっている。
そしてこのスクリームパートが終わった後は、何事もなかったようにまたヴォーカルを映し出す... 何かがズレている気がするのは私だけではないはずだ。
彼はそれをで行い、自然と他のメンバーに寄ってしまったのだ。もしかするとヴォーカルと何か確執があるのかもしれない... 触れてはいけない背景だろう。

そう、今回の"エモ"を創造しているのはメンバーではない。我々の目には映っていないカメラマン、そして編集者なのだ。黒子もまた、主役。
私はこの"エモ"と出会った時、あまりのショックに数日ほど寝込んでしまった。しかし、そのショックに、興奮を覚えたのだ。快楽に身を委ねたのだ。


このように、貴方が今まで見てきた"エモ"の先を行く"エモ"もまた、確実に存在する。その先の見えぬ可能性を確かに感じ取れたことだろう。

おわりに

如何だっただろうか、今回は第二回、"エモ"の持つ「見えざる」可能性を中級編を通して見ていった。読者もいよいよ身体が熱くなっていることだろう。
それでは次回は上級編を通して... といきたいところだが、その前にもう少し中級レベルの"エモ"をいくつか見た上で身体を馴染ませてからにしたいと思う。
もちろんではあるが、筆者もまだまだ修行の身、「この間、こんな"エモ"と出会った」などなど、是非とも情報がある時はお伝えして頂ければ幸いである。

決して忘れてはならない"エモ"を視ようとする姿勢、是非とも読者に形成していってほしい。このシリーズがそのキッカケとなるように。


それでは次回をお楽しみに。また、"エモ"る日まで。          ―05/24/2014 五条隆志