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Blut Aus Nord

Blut Aus Nord (ブルート・アオス・ノルト/ブルート・アウス・ノルド)は、1994年に結成されたフランスのブラックメタルバンド。
略称は主にBaNが用いられる。バンドの中心人物はVindsval。2014年現在、フルレンスアルバムを10枚リリースしている。

Blut Aus Nord
写真左から不明、不明、不明

基本情報
  • 出身地: フランス モンドヴィル
  • ジャンル: ブラックメタル(アトマスフェリック、インダストリアル)、アンビエント
  • 活動期間: 1994年 -
  • レーベル: 現在はDebemur Morti Productionsに所属。他は列挙が面倒なので割愛。
メンバー
パート 所属期間
Vindsval ヴォーカル、ギター、その他 1994~
Ghöst ベース 2003~
W. D. Feld ドラム 1994~
Thorns ドラム 2014~※1
K/K ドラム 2009※2

※1: 後述する『Memoria Vetusta III: Saturnian Poetry』の製作に参加する。今後の正規メンバーとなるのかは不明。
※2: サポートドラマー。長らく未発表楽曲であった"Anthracite"のドラムを担当。試聴はこちら

バイオグラフィー

結成、デビュー
1993年、Vindsvalによってブラックメタルプロジェクト、Vladが立ち上げられる。2枚のEPを出した後、1994年にW. D. Feldをメンバーに加えてBlut Aus Nordへと名義を変更、新たに活動を始める。バンド名はドイツ語において「北からの血」を意味する(※文法上の誤りこそあるが、Vindsval曰く「この方が我々らしい」とのこと(意味は不明である)。また、Nordは正式な発音においてノルトと読まれる)。



初期の活動
1995年に1stアルバム『Ultima Thulée』を、翌年には2ndアルバム『Memoria Vetusta I: Fathers of the Icy Age』をリリース。当時、思想面においては主に北欧神話を取り上げ、Vladの要素を引き継いだ、寒々しいギターリフと妖しいシンセサイザーを特徴としたアトマスフェリックブラックメタルサウンドを展開していた。



長期的活動停止、Vindsvalによるソロプロジェクトの展開
2ndアルバムをリリースした後、2000年頃までは実質BaNとしての活動は停止、VindsvalがThe EyeChildren of Mäaniといったプロジェクトを展開。サウンドは従来より大きく外れたものではないが、思想面では大きな転換が見られる。特にThe EyeはVindsvalの製作音源の中でも数少ない反一神教が謳われているプロジェクトである。また、Children of Mäaniでは、オカルトを始め異教や神秘学といった側面に思想が傾倒しており、後々の作品にも影響することとなる。



中期の活動
2000年頃よりBaNとしての活動を再開、2001年に3rdアルバム『The Mystical Beast of Rebellion』をリリース。ここにきて抽象的な禍々しさにフィーチャーした音像を見せ始め、大きくサウンドスタイルが変化し始める。2007年までに4枚のフルレンスアルバム、2枚のEP、2枚のスプリットを発表。この中期がBaNの活動を代表とする期間であり、大きな特徴としては、作品をリリースする度にサウンドを始めとする諸要素が変化していることが挙げられる。4thアルバム『The Work Which Transforms God』は世界各地で絶賛を受け、「BaNのようなサウンド=4thにおけるサウンドという一般認識が成立するほどになる。しかし、後発であるダークアンビエントの要素を濃く取り込んだ5th『MoRT(とあるレビュアーによりVindsval joins the circus.などという秀逸なDISを喰らっている)、ソリッドなバンドサウンドを意識した6th『Odinist(とある国内リスナーからはこれを聴くくらいなら水が滴り落ちる音を曲として聴かされる方がマシとまでDISられている)は酷評も少なくなく、先述の特徴をよく示していることが分かる。この明らかなまでに伝わるVindsvalの思考錯誤は、後期の活動によって昇華される。



後期の活動
2009年、7thアルバム『Memoria Vetusta II: Dialogue with the Stars』をリリース、ここで高等個人主義(後述)という、Vindsvalの思想基盤が完成する。また、「異端」という概念を積極的に作品へと取り入れた上で2枚のEPをリリース、そして、目下最新音源となる『777 Trilogy』(後述)をリリースしている。



2013年
2013年初頭、Vindsvalが新たなThe Eyeの音源(1stの続編)を製作する意向を1stの再発に合わせて発表。彼によると、「サウンド、そしてリフは深みを増し、不気味なシンセサイザーと絡み合う形になるよ。世界観は1stを受け継いだもので、古きブラックメタルをインスパイアした寒々しさ、そして霊妙さで構成される予定だ」とのことであり、リリースは2014年になるとコメントを残す。

また、上述の4thがリリースから10年ということもあり、アートワークを一新し7月にヴァイナル/CDで再発された。加えて、今までヴァイナルのみのリリースであった『What Once Was... Liber』シリーズも全てCD化される目処が立っている。

7月に新プロジェクトVjeshitzaにてアメリカのポストブラックメタルバンドKralliceとのスプリットを製作する旨が発表される。進捗状況は不明。発表してしばらく経った後、プロジェクト名をVjeshitzaをEkstasisに改名している。

2013年の暮れに『What Once Was... Liber III』をリリース。2014年4月現在、WOWシリーズにおける最新作となっている。



2014年現在
2013年にDebemur Morti Productionsが10周年を迎えたこともあり、年を跨ぐこととなったがDMP0100というナンバーを有したBaNによる記念音源、『Debemur MoRTi』がリリースされた。そして今年中に新たなアルバムとなる『Memoria Vetusta III: Saturnian Poetry』のリリースが待たれている。

また、6月20日には同郷であるインダストリアル・ドゥームメタルバンド、P.H.O.B.O.S.とのスプリット"Triunity"がリリースされる予定である。
両者とも3曲ずつ提供、全6曲。P.H.O.B.O.S.側のマスタリングはJames Plotkin氏が担当する。DMPからのリリースであるため、CD/LP/Digitalで購入可。

 

音楽性

上記にも書いてある通り、サウンドのソースは幅広く一概に固定的な表現を用いることは難しい。しかし、中期以降はトリガーを用いたソリッドかつ変則的なドラム、気持ちの悪いうねりを持ったギターリフやインダストリアルサウンドなどを多用することなどの特徴をもつ。また、ヴォーカルスタイルは一般のブラックメタルにおけるハーシュヴォイスからさほど離れたものでないが、近年では他にチャントパート等を随所に盛り込んでいる。バンド側はこれらの自身のスタイルを「Occult Advanced Audio Research」と称しており、Vindsval自身も「同じことを繰り返す必要性を感じない」と述べている。

Vindsval

BaNの方向性はほぼ全てVindsvalによって決定される。作品の構想を練る際、メンバーや他人、その他現代の環境から離れ、Vindsval一人でインスピレーションを得ている。後期には神秘的合一、脱我といった神秘主義を思想体系の基盤としつつ、個人主義のスパイスを織り交ぜた「高等個人主義」を完成させ、これを基盤として作品上に表出させている。高等個人主義とはすなわち、内的な自我の破壊により世界からの乖離を図り、結果もたらされる「究極の個」を発現させることを至上の目的とするものである。また、Vindsvalは仏教に対して肯定的な姿勢を見せており、『777 Trilogy』では法句経の引用が多々用いられている。

彼がインスパイアされた音楽体系はブラックメタルのみならず多岐に及んでおり、嗜む音楽体系もまた、幅広いものである。Pyramids(from Hydra Head Records)への楽曲提供などがその一例と言える。Deathspell Omegaなども無論好んではいるが(DsO問題については後述)、「ブラックメタルとは己自身から湧き上がる深層に在る感情や意志によって初めて成立するものである」と発言したことからも分かるように、ブラックメタルの真偽性については否定的な立場をとっている。

数多あるジャンルの中でもお気に入りはインダストリアルメタル/ロックであり、Godfleshを敬愛している節がある。他にも以前彼自身が管理していたBaNのFacebookページ(現在は彼の気まぐれゆえか削除されている)にてSonic Youthなどにいいね!をかましているなど、グランジ付近にも関心があるようである。ちなみにコラボしたいアーティストは誰かという問いに対しDälek(ヒップホッパー)氏の名を挙げたことがある。

BaNはライヴを一切行わず、メディア露出が非常に少ないことも有名である。ただし、インタビューに対しては意欲的であり、丁寧に質問へ応えている。とはいいつつ後期以降、上記のように現代的な環境から離れた場所で大部分の活動を行っているため、コンタクトをとることは例えレーベルの関係者といえど至難の業となっており(森から帰ってこない)、日々関係者たちを悩ませている。多用する言葉は「Ahah」。また、中期までは作品の売上の結果や影響を楽しんで見ていたようだが、後期以降は全く気にしなくなったとのこと。

DsO問題

BaNが批評などの評価を受ける際、ほぼ決まって引き合いに出されるのが同郷のブラックメタルバンド、Deathspell Omega、通称DsOである。言うまでもなくDsOは現在のブラックメタルシーンを暗に牽引する最重要アクトであり、そのためにDsOが引き合いに出された上で、比較されることによってBaNが霞んでしまい、正当に目を向けられないままに批評されることが多々確認されている。これがDsO問題である。BaNのライヴをしない上にメディア露出が少ない性質、何か見計らったかのような三部作の発表なども一因であるのだろうが、実際、アヴァンギャルドな要素を盛り込んでいるということを除けば、両者のスタイルはそこまで類似したものではなく、こと思想面においては絶対的な相違点が見られる。しかしながら両者を採り上げ、比較することは世界各地で最早様式美と言わんばかりに深く浸透しており、未だに現実的な解決策は見えていない。

日本国内のブラックメタルシーンでも同様に、このDsO問題は浮き彫りとなっている。DsOとは異なり、極端に賛否両論が分かれている際立ったフレンチブラックのイコンと化しているだけでなく、作品を出すごとに代わる様相に戸惑い、手を出しにくくなっているリスナーも多く散見されている(まずは1st、4th、7thなどを手に取ってみてはいかがだろうか)。もちろんフックの効いたDISをされることもあり、「(BaNの)作品を聴いているうちは舌打ちだけは出すまいと思っていたが、自然と舌打ちをしてしまった。自分でも不甲斐無い」などといった名言も確認済みである。

777 Trilogy

現在目下最新フルレンス音源となる777三部作。

  • Sect(s)

主に「異端」という概念を取り上げている。その所以はフランス語で謳われているリリックからも容易に窺い知ることが出来、この時点ではキリスト教に対して言及している。哲学的性質を持ち合わせており、4th+6thといったような所謂BaNらしいサウンドである。余談ながらこの異端というテーマの残滓として、3枚のEP『What Once Was... Liber I, II, III』が製作されている。

  • The Desanctification

第2部。ここから新たに「異教」という概念が採用され、その基盤に仏教が置かれている。法句経の格言が引用されており、既発音源にも殆ど見られないまでのミスティカルなサウンドスタイルへと移行している。

  • Cosmosophy

最終章。主に「時間」「収束」というキーワードを用い、高等個人主義の側面から世界を解釈したものである。アンビエントの性質に加えてインダストリアルサウンドが多用され、メッセージ性が重視された、一般のブラックメタルから離れた作風へと変化している。

 

Discography

列挙が面倒であるため、下記リンクを参照されたい。

  1. The Metal Archives
  2. Discogs